『赤鬼』(※ネタばれあり)

『赤鬼』ロンドンバージョンを見に行きました。
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/event/akaoni/
野田秀樹氏が、たしか国の芸術ナンタラという制度でロンドン留学して、帰国して第一弾の公演がこの『赤鬼』だったと思います。(ウロ覚え。違ったらスミマセン)
私は初演は観ていませんが、戯曲は割りと早い段階で手に入れて読んで、凄い衝撃が走った覚えがあります。

ストーリーですが、皆さん『泣いた赤鬼』というお話知っています?この赤鬼って漂流してきた異国の人という説を聞いた事がありませんか?
海を漂流していた人が助かって海亀のスープを飲んで…という話を聞いたことがありませんか?(割りと誰もが聞いた事あるブラックな話と思うんだけど)
端的に言ってしまうとその二つの話を足した話です。いたってシンプルでありながら、本当の『鬼』について、そして『絶望』について考えてしまう内容。


ロンドンバージョンということで、英語が判るか不安だったのですが、無料でイヤホンガイドを貸与してくれます。(保証金1000円払いますが、返却時に戻ってきます)ただ、このイヤホンガイドが曲者なんです。 翻訳者は出来るだけ、感情込めずに淡々とセリフを言ってくれるんですが、その淡々としたセリフと舞台の温度差が逆に気になったり、(コクーンシート〈3階席〉だったせいもあると思うけど)ちょっとでも翻訳者に感情が篭ると、それがまた邪魔だったりして…。本当は舞台袖に字幕スーパーを付けてくれればいいんだろうけど、360度客席なので、無理なんですよね。

ロンドンの演劇とは?なんて考える余裕もなく、必死に舞台とイヤホンガイドに付いていくのに精一杯で、特に感情移入したりすることはなかったのに。それでも最後はやっぱりなんだか知れない感情が込み上げて来るのは、恐るべし野田秀樹ってカンジでした。

そうそう、ロンドンバージョンだったので、日本人の役者は野田秀樹一人だけ。つまり彼が『赤鬼』の役だったのですが、村人が「食べられるかも」と恐れている鬼が日本人でも小柄な野田氏だとですね…。どう見ても外人さんの方が大きいし、肉食に見えるし、鬼の方が食べられそうだよ〜〜と気になりました。
野田さんは、恐い鬼には見えませんでしたが、変な言葉を叫びまくり、変な動作をしていたので、異質という意味で“怖い鬼”でした。

再来週はタイバージョンを見に行きます。日本バージョンはチケットが取れなかったんですよ(T-T) 野田さんの凄さは、脚本、特にセリフ回し、言葉遊びにあると思うし、やはりストレートプレイでセリフは重要だと思う。なんとしても日本版『赤鬼』が観たいものです。

そして、ここから思いっきりネタばれなんですけど、ヒロインは、本物のフカヒレのスープを飲んだことにより、『死』を選びます。
その前に赤鬼と「どんな事があっても生きる」というような会話をしていたのに、彼女はどうしても耐えられなかったらしい。
その心の絶望は、いか程だったか計り知れないけれど、私は赤鬼の言葉を胸に、赤鬼の分まで生きていって欲しかった。
私だったら、生き抜きたい。生き抜ける強さが欲しい。
たとえ赤鬼の事を記憶の底に鎮めても、赤鬼と一緒に生きている事には変わりないと思うから。

ヒロインに「フカヒレのスープ」と嘘ついて食べさせる男について、脚本では、とてもヒロインの事を愛しているように感じていました。素直じゃないから「愛している」って言えないけど、「お前に生きて欲しかったんだ」と言うセリフに愛情を凄く感じたのですが、ロンドンバージョンだとその想いがあんまり見えてこなかったのが残念。
更に感想というか、希望を言うと、愛しているなら「あれは本当にフカヒレだった。瀕死の状態だったから違う味に感じるんだ」くらい嘘を突き通して欲しかったな。
そんな男を日本版では、大倉孝二さんが演じます。どう演じられるんだろう?やっぱり、すっごく日本版が観たい!!