『スペース』

加納朋子さんの『スペース』を読みました。スペース (創元クライム・クラブ)
ななつのこ』『魔法飛行』に続くシリーズ三作目です。加納さんご自身が、巻頭に出来れば先の物語から順番に読んで欲しいと記載されていました。
もちろんどちらも読んでいるのですが、おそらく2年位前なのでおぼろげな記憶です。『魔法飛行』の1文がとても気に入っていたんですけど。


このシリーズは、短大生・駒子の日常生活とその中で起こる謎について、感銘を受けた本の作家宛に手紙を書いて、その文章だけで作家・瀬尾さんが鮮やかに謎を解決する形式になっています。
今回も駒子の日常と「はるか」という女性宛の手紙が章ごとに交互に展開されていて、読者は手紙の主と駒子の関係、また「はるか」との関係について推理を廻らしながら読むことになります。

感想はですねぇ、やっぱりもう一度『ななつのこ』『魔法飛行』と続けて読み直したいなぁ。別の人から見た駒子やそのお友達の印象というのが大変興味深かく、また瀬尾さんと出会った頃から、短大卒業後までちょろっと出て来るので、もう一度シリーズ全体を読み直したら色々新しい発見があって楽しめると思うんですよね。特に瀬尾さんが駒子に出会う前にとても大切な方を亡くしているという点がすっぽり私の頭の中から欠落しているので、確認しなおさないと。

タイトルの『スペース』ですが、パソコンのキーボードの「SPACE」キーのことで、その意味がお見事。一緒に収録されている『バックスペース』も然り。

本の感想からちょっとズレるかもしれませんが、『バックスペース』の以下の下りに自分の事も重ねて、突然ブワっと涙が溢れてしまいました。

誰かを好きになることは、あらゆる未知のものを自分に注ぎ込むってことだ。
今まで知らずにいた、知らなくてもまるで平気だった知識や感情、そして自分自身…。
そうしたものまで徐々に満たされていくのは、なんて幸福でくすぐったくて不思議なのだろう?
そうして私は自分がいかに空っぽだったのかを思い知ったのだ。

ホント誰かを好きになるって凄いよね。相手に影響されて、それまで知らなかったことを知り、興味なかったことも気になりだす。自分の中に新しいファイルフォルダが作られる。そして、その相手と別れることがあっても、そのフォルダに蓄積されたモノはなかなか削除されなかったり、すでに自分の習慣のひとつになっていたりもするのである。
そんなに簡単に忘れられないよ。忘れたくないよ。