『幻夜』

東野圭吾さんの『幻夜』を読みました。幻夜
発表当初『白夜行』の姉妹編のように宣伝されていたため(続編とは書かれていなかったような…うろ覚え)、『白夜行』に衝撃を受けていた私は『幻夜』を早く読みたくて仕方なかったんですけど、結局今頃手にすることとなりました。

阪神大震災の直後出逢った男女のその後の生き方が描かれています。欲望のためなら、どんな手も使う、恐ろしく冷静で頭の切れる美しい女とその女に影のように連れ添う男が出て来るという設定が『白夜行』と同じです。

違っている点は、『白夜行』では主人公の男女に関わった人間の視点だけで描かれており、彼女達が何を想い、考え、行動していたのかという点が描かれていなかったのですが、『幻夜』では、男側の視点が描かれていることです。(ヒロインの視点は相変わらず描かれておらず、そこが彼女の神秘性を深めているというかミステリアスで良いんです。)
幻夜』を読みながら、『白夜行』の二人もこのような会話を交わしていたのだろうか、『白夜行』の男もこのような想いで彼女に動かされていたのか、と二作品を比較しながら、補足しながら読むことが出来ます。

幻夜』のヒロイン美冬は過去を執拗に隠しており、また時代設定が『白夜行』の後になるため、もしかしてヒロインは…と前半部分で心躍らせてしまいました。たぶん『白夜行』を先に読んでいる人は皆期待したのではないでしょうか。でも、作者が「続編」とは言ってらっしゃらないようですし、彼女の正体は明らかにされないままなのが心憎いです。

正直な感想は『白夜行』の圧勝です。とんでもない女だけど『白夜行』のヒロインには憧れてしまう部分があり、また影の男のことを愛していたのではないのかと思っていたので、ラストひとりで白夜を歩むことになる彼女の孤高の道行きに胸を揺さぶられたのですが、『幻夜』では影の男の視点を描くことにより、結局彼も彼女のコマのひとつに過ぎない、彼女は誰も愛してはいないということが判り、可哀想な女だという感想に尽きてしまうんですよね。

作中に“『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラのような女性”という表現があるのですが、今回の美冬は確かに自分の欲望を全て手に入れて、これからも登りつめていくのだろうけど、スカーレット・オハラでは無いなぁと。スカーレット・オハラは、最後には愛に気付いたから。愛にも色々な形があると思うけど、美冬は自分しか愛していないことがハッキリしたので。自己愛以外の愛を知らない人は可哀想というのが私の感想です。

それにしても、美冬の悪運の強さとカンの良さ、頭の良さには感服します。実際にこんな女性がいたらどうしよう、いや居るかもしれないとアレコレ想像してしまいます。読み始めたら眠れなくて、一息に読み終えてしまいました。いやぁ、面白かったです。